夜明け前

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すべての、白いものたちの

美しい本を買った。
静かな本が好き。余分な文章のない、長たらしくもない、淡々としているけれど、芯のある本。


祖父の亡骸を焼いた日のことを思い出した。田舎の小さな葬儀場で、棺には沢山の花と、祖父が生前大切にしていた洋服やマフラー、サングラスなどが一緒に入れられた。皮のジャケットにチェックの赤いマフラー、真っ青なシャツに茶色がかったサングラス、コーデュロイ素材のハット。今思うと祖父は結構小洒落た人だったと思う。片田舎の小さな町だから、お洒落なんて言ってもそんなに煌びやかなものではないけれど、彼はきっといい空気を纏う才能があった。

大学に進学して実家を出てからはあまり家族に会うことがなくなってしまって、久しぶりに真っ白な病室でみた祖父は小さくしぼんでいた。
痛みを訴えることが多く、楽な最期ではなかったかもしれないが、生き抜いた。最初で最後にゼリーを食べさせてあげることができたのは良かったのかもしれない。

炉で焼かれた祖父は真っ白で、みんな、誰だって死んだらちゃんと白に帰れるんだと思った。
煙が空に昇っていくのは当たり前のことなんだけれど、祖父の体は真っ青な空に吸い込まれてゆき、やがて見えなくなった。
不謹慎なのかもしれないが、あれはきっと、とても良い旅路になったのではないかな。

このときの感覚が、この本に少し近いような気がする。
内容、雰囲気、主旨、どれがとは明確に言えないけれど。

中身はと言うと、流れるように一晩で読んでしまった。(本当は週末の晩酌のお供にしようかと思っていたんだけど、止まらなかった。)

静かで熱く、白く燃える本。

「すべての、白いものたちの」/ハン・ガン